最後のイチロー杯でイチロー選手が未来のスタープレーヤーの原石に話したこと

 
『イチロー』
 
本名は鈴木一朗。愛知県出身の元プロ野球選手だ。
昨年惜しまれながら現役を引退。言わずと知れた名選手だ。日本国内のみならず世界中のファンが彼の素晴らしいプレーに酔いしれた。イチロー選手はそれら数々の記憶に残るプレーでいくつものタイトルを勝ち取ってきた。そして、何より、彼を魅了するのはストイックなまでに野球に向かう姿勢や真剣な眼差しで、時には会場を沸かせる名スピーチではないだろうか。彼の行動や発言は野球ファンのみならず、その他の分野の方にも大いに影響を与えたにちがいないだろう。もちろん、私もその内の一人だ。野球ファンではないが、イチロー氏の活躍はいつも気になっていた。YouTubeでも過去のインタビューや対談を何度も見たことがある。
 
イチロー氏が現役時代から毎年開催している『イチロー杯』なる少年野球の大会があるそうだ。現役引退によってこの大会も今大会を持って一つの節目となった。そこで、イチロー氏が球児たちに贈ったメッセージが大変考えさせられるものであったのでここで紹介させていただきたい。
 
 
僕はこの春、現役を引退しました。そのときにイチロー杯のことが真っ先に浮かんでこれからどうしようかな、と考えました。これまで毎年ここでみんなにシーズンで感じたことをメッセージとして残してきたんですけども、それができなくなるということで、この決断に至りました。
 
今年はシーズンというよりも、日本で9年、アメリカで19年間、プロ野球選手として過ごしてきて何かみんなに最後、伝えられればいいかなと思って今ここに来ました。
 
2点あります。まずこれからみんなが野球を続けていくか、いくつまで野球を続けていくか分からないですけども、僕は先日、学生野球資格回復の研修に出てきました。合否については2月に明らかになります。まだ研修を受けたというだけで結果は分かりません。ただそれが可能になるのであれば、ひょっとしたらみんなとまた別の場所で会うことができるかもしれないので、なるべくみんなに野球を続けてほしいなと思います。
 
そのときに感じたことは、今みんなは学校で先生にいろいろ教えてもらってると思うけど教える側の立場の人間、なかなか難しいらしいですね。先生たちよりも生徒の方が、力関係が強くなってしまっているという状況があるみたいで、このことに僕は心配してるというか、よく考えることがあります。
 
みんなに伝えたいことは、先生たちから教えてもらえることで大切なこともいっぱいあります。みんなが謙虚な気持ちで先生を尊敬して、疑問に思ったりする、すごく大切なことだと思うんだけども、なかなか厳しく教育をすることが難しいみたいなんですって、先生たちは。だからみんなまだ小学生なんだけども、中学、高校、大学と社会人になる前に経験する時間、そこで自分自身を自分で鍛えてほしい、というふうに今、すごく大事なことだと思います。
 
厳しく教えることが難しい時代に、誰が教育をするのかというと最終的には自分で自分のことを教育しなければいけないんだ、という時代なのかなと思います。僕は野球選手になって、学生のときはそういう風に思えなかった。厳しい先生がいたので…。今のみんなが生きてる時代はそれがすごく大切になるということを覚えておいた方がいいかもしれないですね。それはお父さん、お母さんも覚えておいてほしいことですね。
 
もう一点。これも時代だとは思うけどいろんなことが情報としてすぐ頭に入れられる時代、スマホで調べればいろんなことがわかる時代になりました。世界が近くなったと思えるけど、僕が28歳のときにアメリカに渡って、大リーグに挑戦したんですけど、外に出て初めてわかること、調べればもちろん知識としては分かることであっても行ってみて初めて分かることがたくさんあって、傷つくこともあったり、楽しいことももちろんある。びっくりすることもいっぱいありました。ただ知識として持っておくのではなくて、体験して感じてほしい。
 
それで自分の国、自分の育った日本という国は素晴らしいってことを外に出てすごく感じたというね、そういう経験をみんなにはしてほしいなと思います。今まで当たり前だったことは決して当たり前ではないということに気づくような、価値観が変わるような体験をしてほしいと思いますね。これはいつものシーズンのメッセージとは違うメッセージなんですけど、28年のプロ野球生活を終えて僕が強く感じてることなので、ぜひみんなに覚えていってほしいなと思います。
 
 
イチロー氏は自らの名前の冠がついた最後の大会のスピーチで、自分の輝かしい戦績には触れることなく、現代抱えている『教育』の諸問題について子供たちに投げかけていた。このスピーチをテレビで見ていた私は胸のあたりがグワッと掴まれジンジンと熱い気持ちになった。これこそが、『教育』なんだと。
 
 
さて、話は変わるが、皆さんは小嶺忠敏監督をご存知だろうか?
小嶺監督はサッカー強豪校である長崎県立国見高校サッカー部監督を長年歴任されてきた。全国高校サッカー選手権大会において、6度の全国優勝を成し遂げた名監督だ。国見高校を定年退職後、現在の長崎総合科学大学附属高校サッカー部の総監督に就任。
 
その長崎総合科学大学附属サッカー部が今年度全国高校サッカー選手権に長崎県代表として出場した。チームは残念ながら1回戦敗退となったが、その試合後、小嶺監督が取材でこのようにコメントしている。
 
 
今まで50年間も指揮してきた中で、こんなことは初めてだった。(中略)
 
なぜなら、これまでの指導の中では『これをやれ』と言えば、自分でやっていた。今年の世代は、練習が終わった後に自主練している姿を見たことがない。朝練にしてもそう。自分が顔を出した時だけ姿を見せて練習し始めていた。今年は球際で勝てる選手も少なく、言い続けていたのだが、なかなかね……(中略)
 
本当ね、どうすればいいのか……。全国の先生方も悩んでいるんじゃないかな。強く言ったら、世間とか、あなた方メディアがうるさく言うから(笑)
 
小嶺監督は今年のチームを『史上最弱』と表現してこられていたそうだ。
そして、最後に小嶺監督は以下のように締めくくった。
 
実力的にも、県ベスト8で敗退してしまうレベル。それでも、ある程度頑張れば、これくらいのチームにできるんだと彼らが自信が感じたと思う。『もうちょっと早く頑張れば良かったな』とも。その経験が今後の人生に生きてくる、かもね(笑)
(参照)FOOTBALL ZONE
 
 
私はこの記事を読んで、最後の『かもね(笑)』が小嶺監督が生徒たちに伝えたかったすべてを含んでいるように感じた。
全国の舞台で選手たちを躍動させてやれなかった悔しさ。自分の指導スタイルに対する葛藤。しかし、最後はそんな彼らへの将来へ期待を込めたエール。
小嶺監督の想いがすべて凝縮された『かもね(笑)』だったのだろう。
 
私が小嶺監督のお気持ちをすべて察することなどおこがましいことくらい重々に承知している。
私たちの目の前の生徒は、世界を目指しているわけではない。
全国大会を目指しているわけでもない。
しかし、Daichi上牧生が自分を律して受験勉強に励む姿勢は、大リーガーを目指す人や、全国大会優勝を夢見て努力する人と何ら変わらない私は信じている。
 
私たちの目の前の生徒の方が、ゴールの『規模』は小さい。
全国を目指す人たちに比べると、きっと意思が弱く、逃げ出してしまいたくなることもあるだろう。
そんな弱い彼らだからこそ、高校受験を通じて合格プラス『何か』を手に入れてもらいたいのだ。
 
イチロー氏も小嶺監督も目指している世界は違っているが、磨けばキラキラと光り輝く原石である目の前の生徒のために自分が何が出来るのかを考えておられるのだろう。
『教育』に関する諸問題についても危機感を持っておられる。
今に始まったことではないが、『必要な厳しさ』ですら嫌われる時代になりつつある。
競わせない、比べない、結果を残す圧力もかけられない……
しかし、結果だけはちゃんと残してねと言われるのだ。
 
指導者のスタイルも様変わりしてきた。
指示を忠実に守らせる指導から対話型の指導へ。
確かに、対話型の指導は必要だ。そこに異論はない。
しかし、最低限の『型』が身についていない、あるいはそれを身につけようとしない者を指導することなど不可能に近い。
やはり最初は『正しい型』を守らせることが大切だと私は考える。
そして、イチロー氏や小嶺監督がコメントされていたように、最終的には自立していくことをDaichi上牧生にも求めたい。
 
最後に、小嶺監督は本を書いておられる。
その本のタイトルは『国見発 サッカーで「人」を育てる』だ。
進学塾Daichi上牧は、高校受験を通じて、Daichi上牧生を育てあげたい。
 
進学塾Daichi上牧代表 堀居邦彦
 

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